プロフェッショナルに。
塩崎 潤一 Junichi Shiozaki

NRI 株式会社 野村総合研究所
データサイエンスラボ長

あらゆるデータを集め、つなぎ、分析し、
新たな知見や付加価値を生み出す。
デジタル技術の急速な進化と普及により、その活用が企業の競争力の源泉となる時代へとビジネスシーンはシフトしています。そのような潮流の中で、当社のDX の中心にいるのが私たちIT デジタル推進部です。私たちは事業変革の現場へ積極的に参画し、新たな価値を共創するビジネスパートナーとしてトヨタグループの源流である豊田自動織機のモノづくりを支えています。
糸から布を織るG 型自動織機の開発に始まり、時代ごとの課題とニーズを捉えて自動車やフォークリフトなど、つねに新しい事業に挑戦してきた豊田自動織機。「トヨタグループの源流」と称されるこの企業の根底には「研究と創造に心をいたし」「常に時流に先んじて」の理念があり、それがアグレッシブなチャレンジと持続的な成長を可能にしてきました。現在「繊維機械」「自動車」「産業車両・物流」3 つの事業領域すべてで世界シェア1 位の製品を持つ同社は早くからIT への取り組みも推進しており、自動物流車両・機器の開発とそれらを統合制御するシステム開発によってグローバルに物流ソリューションを提供する企業としても知られています。そして2022 年、全社的なDX の強化を目的とした「IT デジタル推進部」がスタート。そのキーパーソンたちへ、独占インタビューを行いました。
— 2002年に設立された情報技術研究所「e-lab」は、これまでどのような成果を出してこられたのでしょうか?
大橋:当時は珍しかった免振機能等を有した企業内データセンターとして立ちあげられ、ミッションクリティカルな基幹系システムやネットワーク、IT インフラを多数導入してきた実績があります。特徴的なのは、情報システム部門とビジネス部門、情報子会社、IT ベンダーなどが”One-Team” でプロジェクトを推進してきたことですね。
— 現在の貴社のIoT 基盤である「GAUDI」の考え方や概要を教えてください。
大橋:IoT とはビジネスの競争力を確保するために、あらゆるデータを集めてつないで分析し、新たな知見や付加価値を生み出していくものだと理解しています。製品やサプライヤー、ソーシャルなデータをつないで分析することで、お客様には顧客体験価値の向上、われわれ自身にはサプライチェーンやモノづくりの高度化をもたらすのです。IoT の基本機能は「とる」「ためる」「活用する」「フィードバックする」。この4 要素を実現し、すべての事業部で一元的に運用していく基盤としてGAUDI を自主開発しました。
— 「GAUDI」は貴社の製造現場にどのようなソリューションをもたらしてきたのでしょうか?
大橋:分かりやすい実績としては、製造設備での品質向上への取り組みです。製造設備では、設備そのものの製造用パラメータに加え、温度や湿度などの環境変化や素材などに大きく影響を受けるため、変化する環境条件に合わせて制御パラメータ値を変更する必要があります。これまで、どのような制御パラメータ値に調整すべきかは、熟練作業者の判断に委ねられており、ノウハウが完全に属人化しているという課題がありました。そこで、設備に取り付けられたセンサーから集めたデータをGAUDI に蓄積しAIで学習させ、これをリアルタイムに分析することで『このまま運転を続ければ不良品を作ってしまうおそれがある』と判断した場合、正常に戻すための制御パラメータ値を新たに推論し、自動的にフィードバックする。それによって良品が作り続けられる工程を確立したのが、最も大きな成果だったと思います。
— 皆さまが所属される「IT デジタル推進部」が新設された背景と、この部が今後果たされていくミッションを教えていただけますか。
大橋:当社にはもともとDX 推進部とIT 推進部があり、前者が新しい技術を活用して業務改善していく「攻め」の仕事を、後者がインフラ構築・整備やセキュリティ等の「守り」の仕事を担っていました。それらを一体となって進めるために「IT デジタル推進部」ができたのです。ミッションは、経営や事業のビジネスパートナーとしてデジタル化を推進していくことです。先行開発室には、ソリューションを作って提供する。ビジネス連携室には、より事業部に入りこんでビジネスの課題を捉え、どんな技術で解決すればいいかを先行開発室と連携しながら考える役割があります。
— 貴社では、未来へ向けてどんな人材を育成していきたいとお考えですか?
大橋:デジタルの技術と自分の仕事を積極的に変える意識の2 つを育成することが必要です。DX の時代、デジタルを知っていても、自分の仕事が変えられないと何もトランスフォーメーションしないですからね。
市川:デザイン思考はすごく大事だと思います。ユーザーが問題に感じていることに対して「本質はここじゃないか?」というところを気づける人がいるといい。課題発見する力を育てたいです。
— ビジネスへ直結する教育機関としてスタートするTID への期待をお聞かせください。
末高:大学ではいい成績を取ること、会社では良いモノをつくって社会に貢献することが大事、というのが従来の常識だとしたら、いい意味でそれを覆す存在であってほしいです。数年前まで大学院生だった私自身、大学でもただ勉強するだけでなく、学んだことを実装する作業をしっかりやっていれば良かったと感じているので、そうしたカリキュラムがあるといいなと思います。
市川:これまでにあった大学と社会の距離感が縮まってくると、即戦力の人材は育ちやすいでしょうね。
— 最後に、これからDX のプロを目指す若者たちへメッセージをお願いします。
小浦:流行り廃りが激しいデジタルの分野で、一番大事なのは好奇心です。新しい技術が出てきた時に、喜んで取り組む姿勢。それは、一朝一夕でなく長い時間訓練しないと身につかないものなので、若いうちからあらゆるものに目を向け、興味を持つようにしてください。
大橋:最も大切なのは、IT で何を解決したいかという視点です。課題を現場で見て理解して、それと自分たちのどんな知識・技術がマッチするのかを見極め解決するスキルを磨いてほしいと思います。また最先端のIT 技術は欧米など海外で生まれることが多いため、英語はとても大事になります。グローバルに活躍できる人材になるためにも、語学力も高めてください。