情報工学はダントツで就職に有利! ―引く手あまたな理由と卒業後のキャリア・将来性-

能見 利彦 教授(東京情報デザイン専門職大学)
担当科目:イノベーション戦略 / 知的財産戦略 / クロステック研究A / クロステック研究B / クロステック研究C / 臨地実務実習Ⅰ / 臨地実務実習Ⅱ
経歴:経済産業省・通商産業省にて、研究所や研究開発プロジェクトのマネジメント、我が国イノベーションの国際比較分析、ハイテク産業・地域産業・中小企業の振興政策の立案と実施などに携わる。京都大学機械工学修士、東北大学博士(工学)。産学連携などの研究実績も多く、神戸大学教授、研究・イノベーション学会副会長などを歴任。
「ゲームが好き」「将来はゲームエンジニアになりたい」――。
そんな思いをきっかけに、情報工学に興味を持つ高校生は少なくありません。実際、ゲーム開発は高度なプログラミングや情報技術の集大成であり、多くの若者の憧れの職業です。
しかし、情報工学で身につけた力が活かせるのは、ゲーム業界だけではありません。銀行や鉄道、製造業、官公庁など、私たちの社会を支えるあらゆる分野で、情報技術者(IT人材)は必要とされています。さらに近年は、AIやDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展により、その重要性はますます高まっています。
本コラムでは、ゲーム産業と情報産業の関係を入り口に、
「情報工学を学ぶと、どんな仕事に就けるのか」
「将来性や就職の強さはどうなのか」
を分かりやすく解説します。進路選択を考える際のヒントとして、ぜひ最後までお読みください。
記事の概要
ゲームが好き!その先にある「情報工学」とITの世界

情報工学を進路として選ぶ高校生の多くは、「ゲームエンジニア」になる夢を持っています。「スーパーマリオ」「あつまれ どうぶつの森」など人気のゲームは多く、ゲームを通じて友達が出来た思い出から、将来は自分がゲームを作って、子供たちに幸せを贈る側になりたいととの夢を聞いたことは何度もあります。そのためには、コンピュータを勉強して情報技術者になる必要がありますが、高校時代から、すでに自分でゲームを作って、プログラミングの技を磨いている人もいて、立派だと思います。
日本のゲーム産業は世界的にも成長を続けている
ゲーム産業は成長産業で、経済産業省によれば、ゲーム産業は2013年から2023年に約3倍に伸びています。また、ハード、ソフト併せた国内のゲーム市場は、2023年に2.1兆円で、特にオンラインで提供されるゲームソフトの市場が1.5兆円を占めています。(「ファミ通ゲーム白書2024」(株)角川アスキー総合研究所発行)
世界でも、日本のゲーム産業は大人気で、ゲームを通じて日本が好きになった子供たちも多く、日本のイメージアップに大きく貢献しています。
このように素晴らしいゲーム産業ですが、ゲームソフト開発だけの売上高を見ると、実は、情報サービス業の売上高17.9兆円の中の4.1%で、割合はあまり大きくはありません。(表1)
情報サービス業の中心はソフトウェア(プログラム)を開発・作成する産業で、その売上高は13.0兆円ですが、この中でゲームソフト開発の割合は5.7%です。つまり、ゲームソフト開発以外に、非常に大きなソフトウェア開発の仕事があることが分かります。
例えば、街の中を見渡せば、銀行の情報システム、鉄道の情報システム、官庁の情報システムなど数多くの情報システムが稼働しています。社会の中の人々の生活も、仕事も、こうした情報システムが適切に稼働することで廻っています。こうした情報システムの頭脳になっているのが、ソフトウェア(プログラム)です。
社会を支える情報システムの正体とは
このような情報システムは、誰が、どのようにして作っているのでしょうか?システムを所有している銀行、鉄道会社、官庁などは、自分達だけで作れるわけではありません。専門家であるNTTデータ、日立製作所、富士通、NECなどのIT企業に情報システムの設計やソフトウェアの開発を注文し、これらの企業が中堅・中小やベンチャーのIT企業と協力して情報システムを作っています。
そのようにして作るソフトウェアの売上高が、表1の「受注ソフトウェア」の11.0兆円です。このような仕事は、ゲームソフトを作る仕事の10倍以上あります。皆さんがスーパーマーケットやコンビニで買い物をする時、ファミレスで注文する時、ホテルやレストランを予約する時、様々な情報システムを使っていると思いますが、それらのシステムはこのように作られています。
高校生の皆さんにとって、「売上高」はピンとこないかもしれませんね。むしろ、就職のことを考えると、日本の中で、どれだけの人数の情報技術者が、どのような仕事についているか、の方が理解しやすいかもしれません。
(表1)情報サービス業売上高の業態別の内訳

データで見るIT人材の仕事の内訳
この点について、情報処理推進機構(IPA)という公的機関が、我が国の「IT人材」の数を、彼らが働いている産業ごとに推計して、公表しています。それが表2と表3です。(出典:「2023年版DX白書」。)
表2によれば、ハードとソフトを含めたIT企業全体で、107.9万人のIT人材が働いています。この表の1行目の「受託開発ソフトウェア業」が、先ほど「受注ソフトウェア」として紹介した仕事のことで、そこで働くIT人材が約75.0万人(IT企業全体の69.5%)となっていますので、7割の人が銀行、鉄道会社、官庁などから受注した情報システムを作る仕事をしていることが分かります。
一方、表の4行目の「パッケージソフトウェア業」で働くIT技術者が約5.4万人となっていますが、ゲームソフトを開発している技術者の多くはこの区分に含まれます。また、「パッケージソフトウェア業」の約5.4万人には、セキュリティソフトの「ノートン」「ウィルスバスター」を作る仕事などゲーム以外のものも含まれています。
また、表2の2行目の「情報処理サービス業」は、企業や自治体の情報処理を代行するサービスで、売上データの集計、サーバ管理、クラウド上のシステム運用などを行っています。表2の3行目の「組込みソフトウェア業」は、家電などの機械に組み込まれているプログラムを作る仕事です。(最近のエアコン、炊飯器、洗濯機などが賢くなっているのは、機械の中に入っているソフトウェアのおかげです。)その他、流通業や製造業の中にもIT企業があり、IT企業全体で107.9万人のIT人材が働いています。
このように、情報技術者への道を進めば、ゲームソフトの開発企業への就職の道が開けるだけではありません。視野を広げて情報産業全体で考えれば、その10倍や20倍もの就職の可能性が拡がります。さらに、本当は情報産業だけでなく、道はもっと広がっているので、その話を次にしましょう。
【表2】IT人材数の推計(IT企業) 【表3】IT人材数の推計(事業会社)

IT企業だけじゃない!銀行・メーカー・官公庁でも活躍できる理由

先ほど、銀行、鉄道会社、官庁などは、情報システムの構築をIT企業に注文していると書きましたが、実は、銀行、鉄道会社、官庁などは、自分自身も情報技術者が必要です。すなわち、自分にとってどのような情報システムが必要かを考え、そのシステムの仕様書を書いて注文を出し、出来上がったシステムの性能を確認するためには、注文する側にも情報技術者が必要なのです。
また、情報システムを開発した後で実際に使う時には、使い方を全社員に指導したり、プライバシーの保護、秘密情報の漏洩防止などの情報セキュリティ対策を講じたり、システムのトラブル処理や保守点検を行ったりする必要があります。そのため、大きな企業には、どのような産業であっても、社内に情報システムの担当部署を持っているのが普通です。
情報産業以外の企業では、昔から、事務室でのWordやメール、入金・出金の帳簿処理を行う会計システム、工場での生産管理システム、倉庫での在庫管理システム、営業活動を支援するシステムなどが導入されてきました。最初は、仕事の種類ごと、会社の部署ごとに、それに適した情報システムが導入されてきましたが、その後、部署の垣根を越えて、社内で情報を共有して、情報を一元管理する「基幹業務システム」へと切り替えられるようになりました。
さらに、近年は、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が重要になっていて、情報システムを中核に据えて新しいビジネス方法を構築することが課題になっています。こうしてくると、情報システムは、企業の中核であり、情報技術者は、経営者のそばで一緒に経営を考えるキーパーソンになっています。
このように、情報技術者は、全ての産業の中核になっています。江戸時代の商人には「読み書きそろばん」の能力が必要とされていましたが、現在のビジネスでそれに相当するのは情報技術なのです。
IT人材は社会全体で不足している
先ほど紹介した「2023年版DX白書」によれば、IT企業以外の企業(事業会社)で34.6万人のIT人材が働いていると情報処理推進機構(IPA)は推計しています。(表3)
これは、IT企業のIT人材107.9万人の32.1%に過ぎませんが、米国など海外では、事業会社で働くIT人材の方が多くなっています。そのため、IT企業以外の多くの企業では、情報技術者が不足していて、「今年の新人採用枠の中で情報技術者を十分採れなかった。来年はその分も採用したい。」と言っている企業をよくみかけます。それほど情報技術者は、社会全体で必要とされています。
就職後も強い!情報技術者は「働き方」まで選べる

就職に際しては、企業の事業内容だけでなく、「働き方」も大切になります。現在、働き方に様々なタイプがありますが、例えば「メンバーシップ型雇用」と「ジョブ型雇用」の違いがあります。日本の伝統は、メンバーシップ型で、ある会社に就職すると、入社時点では将来の仕事は決まっておらず、会社が要求する業務は、何でも対応する必要がありますが、会社は終身雇用を守ってくれます。
一方、ジョブ型雇用は、仕事の内容と報酬を事前に決めて、成果を出せば報酬も高くなりますが、その仕事がなくなれば他社に転職して、同種の仕事を続けるタイプです。日本では新しい雇用形態ですが、米国ではこれが主流になっています。この2つの雇用形態は、どちらの方が望ましいかは一概には言えません。好き嫌いの問題で、メンバーシップ型を好む人も、ジョブ型を好む人もいます。
情報技術者の場合は、都合のよいことに、両方の働き方の職場があります。一般的には、事業会社では、メンバーシップ型雇用が多く、IT企業では、それに比べればジョブ型雇用の割合が多く、情報技術者はこの2つを選ぶことができます。
情報技術者は働き方を選びやすい職業
また、ライフステージによって、がむしゃらに働いて多額の給与を稼ぐ時期と、家族と過ごす時間を大切にしたい時期とができることが普通ですが、情報技術者は、その選択の機会にも恵まれています。コロナ期以降にリモートワークが普及しましたが、特に情報技術者のリモートワークが増えているようです。さらに、様々な産業、多くの企業が情報技術者を欲しがっているために、情報技術者は転職しやすいとのメリットがあって、それにより働き方を変える機会に恵まれています。
将来性・就職力で選ぶなら情報工学がおすすめな理由

情報技術者は今後も不足し続ける
我が国における情報技術者の需給に関しては、採用したいとの産業界のニーズが強く、人材不足の状態が続いています。また、2030年に45万人不足するとの見通しを、経済産業省が2019年に発表しています。(「IT人材需給に関する調査」)
その後、情報技術者を増やす努力は行われていますが、情報技術者の需要は益々強くなっているので、情報工学を学ぶ学生にとっては、就職戦線で「引っ張りだこ」の状態が長く続いており、今後も続くと考えられます。
特に、2022年のChat GPTの登場以降、人工知能(AI)の普及は著しく、AIの扱いに慣れた情報技術者への需要はさらに強くなっています。また、現在、コンピュータウィルスによって、アサヒビールの情報システムが乗っ取られるとの事件が起こっていますし、少し前には、高速道路のETCの大規模障害やみずほ銀行のATMのシステム障害もありました。こうした事件が起こると多くの企業で、情報セキュリティの強化や情報システムの保守点検の強化に努めます。そうすると情報技術者の需要がさらに強くなります。
実務に強い大学で学ぶことが将来への近道
現在、文系よりも理系の方が就職で有利とされていますが、理系の中でも、情報技術者がダントツで就職が有利になっています。就職のときだけではなく、情報技術者は、就職した後の働き方や転職などでも有利になっています。このため、ゲームエンジニアになるためにも、情報産業で働くためにも、それ以外の産業で働くためにも、大学では情報工学を学ぶことがお薦めです。
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